かえりみち
「お父さん、タクシーでどこかに行ったみたい。病院だといいんだけど」
交差点の信号が、間もなく青に変わろうとしている。
「それはないな。でも、どこへ行ったか大体検討はついてるんだ」
人生の半分以上を、あのお化け屋敷で引きこもり同然の暮らしをしていた人だ。
土地勘のある場所はかなり限られている。
ふと、ギアに置かれた百合の左手に目が行った卓也は、あることに気づいた。
左手の薬指にしていた、指輪がなくなっている。
百合が卓也の視線に気づいた。
「?」
卓也の発した無言の質問に、百合は微笑んでうなずいた。