かえりみち
タキシードのままで、幸一はホールの裏口から飛び出した。
物陰から、帰っていく観客に目を凝らす。
確かに、観客の中に歩がいたように見えたのだ。
歩はあのときのままだった。
だから、分かっている、幻だということは。
分かっているのだけれど・・・
いた。
人ごみの中、遠ざかっていく子供の背中。
幸一は人ごみをかきわけ、夢中でその背中を追いかける。
幸一の手が、歩の肩に届いた。
「歩!」
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