かえりみち
それから二人は、
しばらく黙って歩いた。

タクはきっと、ネコのことばっかり考えているんでしょ。ベッド作ってあげなきゃ、とか。
それか島田さんのことかチェロのこと。

タク、もう少しゆっくり歩いて。
もう、こんな風に二人で歩くことなんて、できなくなるんだから。

商店街の片隅に佇む、ひなびた店の前で二人は立ち止まった。
バイオリンの形をした看板。そこに「阿南楽器工房」と書かれている。

「ねえ、ユリ!」

「ん?」

「これ、どうしよう?」

見ると、ネコを抱いていた卓也の黒いジャケットに、無数のネコの毛がびっしり付いている。

「せっかくユリが選んでくれたジャケットが・・・」

「エチケットブラシで取れるから!」

百合は笑いながら、ドアを開けた。

「ただいま。お兄ちゃん、帰ってた?」

ドアの向こうに入っていく二人。
閉まったドアの表に、「都合によりしばらく休業致します」という張り紙が、風雨にさらされはがれかかっている。

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