かえりみち
「大丈夫。ぐっすり寝てた」
幸一は、作り笑顔を浮かべた。
「ごめんね。びっくりしただろ。」
卓也は首を振る。
「いえ」
「由紀子は、病気なんだ。」
「…歩くんが、原因ですか?」
幸一は、卓也を見た。
卓也に歩のことを話したことは、ないはずだけど。
「廊下で安川教授と話してたの、聞えてました。」
「あぁ、そうか」
無難な言い訳だ。
だけど、僕にはもう分かってる。
この一ヶ月、卓也と過ごした時間の中で、幸一の中の希望は確信に変わっていた。
それを隠しておけるほど、幸一は器用な人間ではない。
「…由紀子はね、結婚してすぐの時に、知らない男に乱暴されて…。それで生れたのが、歩。だけどね。わたしは歩を、愛してたよ。わたしたちは本当の親子だった。だから、分かるんだ。」
幸一が卓也の顔をじっと見つめる。
「お前……歩なんだろ?」