かえりみち
卓也の目が、驚きで見開いた。
「……え?」
幸一が卓也に迫る。
幸一は、必死だった。
「隠さないでくれ、ずっと探してたんだよ! 生きてるって、信じてた!」
「島田さん…」
「君は歩なんだ…そうだろ?」
卓也は迫る幸一の襟元をつかんで押しとどめた。
「島田さん!僕は歩君じゃありません! 歩君は死んだんです!」
「違う!」
「そうやっていつまでも彼を生かしておくことが、奥さんをどんなに苦しめてるか、分からないんですか。あの人、僕を歩君だと錯覚して…脅えてたんですよ!」
「……」
やつれた由紀子の顔を思い出す。
由紀子は、きっと我慢していたんだ。
幸一の腕から力が抜けていく。
「島田さん。歩君を、もう忘れてください。このままじゃ、誰も幸せになれません。歩君だって、こんな事望んでない。」
幸一は、薄く微笑んだ。
忘れる?
そんなことができるんだったら、とっくの昔にしている。
「卓也。親は、子供のことを忘れることなんかできないんだよ。」
「じゃ、ずっと探すつもりですか?」
「……。」
「それなら…人違いですから、他をあたってください。」
幸一を残し、卓也が部屋を出て行く。
「卓也。」