かえりみち

追いかけてきた幸一の目の前で、ドアがバタンと閉まる。

卓也の部屋の前。

幸一「卓也。」

返事はない。

あぁ、失敗した。あまりにも正直に話しすぎだ。

幸一は、気づいた。
卓也と過ごしたこの一月の間、自分はすっかり夢の中の住人だった。
歩が帰ってきたような気がして。
由紀子の苦しみも、卓也のとまどいにも気づいていなかった。

「ごめんね…。頭では分かってるんだ。君の言う通り、歩はあの時死んだって。」

歩は死んだ。
もう帰ってはこない。
その事実が、今また、突然幸一に重くのしかかる。
幸一は壁によりかかり、そのまま床に座りこんだ。

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