かえりみち

「・・・俺はあいつを、助けたよ?」

「分かってます」
百合は答えた。

「約束は、守ります。あなたと・・・結婚します」

桜庭は、満足げにうなずいた。
「ごめん、ちょっと強引だったかな。でも、俺は君の事、愛してるんだからね。・・・おやすみ」

桜庭は車に乗り込むと、エンジンの音をふかせて去っていった。

「・・・」

百合はそれを見送ると、ため息をついた。

後悔は・・・してない。
覚悟も、できてる。

だけど・・・
どうしてかな。

時々、無性に会いたくなるよ。
タク・・・。

卓也との距離を思った途端に、百合の目からどっと涙があふれた。

だめだね、タクにはもう会えないよ。
会ったら泣いちゃうから。
いくら鈍感なタクでも、気づいちゃうよね、私の気持ちに。

家の鍵を出して、鍵穴に差し込もうとしたとき。
百合は自分を見ている視線に気づいた。

まだ涙の乾かない目で、その視線をたどった百合は、驚きに体が固まった。

「タク」

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