かえりみち
どうしよう。
タクに、全てを知られてしまった。
「どうして!僕なんかのために!」
つかんだ腕から、卓也の苛立ちが伝わってくる。
この短い時間で、辻褄の合う新しい嘘は思いつけない。
・・・もう、全部話すしかない。
「…タクのためじゃない。自分のためなの。タクがいなくなっちゃうのが、怖かったから。わたし、大事な人を、もう亡くしたくない!」
卓也が百合の手を振り払い、振り向いた。
「お父さんやお母さんと、僕を一緒にするなよ!」
「一緒だよ!タクみたいに奇麗なチェロが弾ける人、他にいないから。一緒にいるだけでほっとする人、他にいないから。タクのこと…大好きだから!」
百合に本心をぶつけられた卓也は、ますます混乱したような表情を浮かべた。
「はぁ?ダメだよ、そんなの! 」
「何がダメなのよ!」
「 分かるだろ? 僕、疫病神なんだよ! 僕に関われば関わるほど、君が不幸になるだけなんだよ!」
「勝手に決め付けないでよ!」
「じゃ、ユリは今幸せなのか?!」
分からない。
それが、百合の正直な答えだった。
卓也は足早に歩き出す。
「タク!」
お願い、行かないで。
ちゃんと話そうよ?
「来るなよ!!」
卓也が振り返り、百合をにらんだ。
その、噛みつかんばかりの表情に、百合は立ちすくむ。
「・・・」
立ち去る卓也。
わたし。
・・・全部、棒に振っちゃった。
タクの幸せも。
私の幸せも。
そして、タクに嫌われちゃった。
もう、どうしていいのか分からないよ・・・
一人残された百合は、声を上げて泣き崩れた。