*イチバンチカク*
俺の言葉に、姫はその美しい顔を俺に向けた。
思わず俺は目をそらしそうになるのをこらえ、言葉を続けた。
「そのような気持ちになれないというお気持ちはわかります。しかし、国のためにも婚約者をお決めにならないと……」
「やめて!」
俺の言葉を遮るように姫の大きな声がバルコニーに響いた。
「やめてよ……あなたにまでそんな事を言われたら、私はもう誰に頼ったらいいかわからないわ…」
――ドクン…
今にもこぼれ落ちそうなほどの涙を浮かべる姫を見て、俺の心臓が大きく脈打った。
そんな顔をしないで…
俺は姫に手を差し出す…
しかし、その手は何に触れることもなく空を仰いだ。
スルリと俺の腕の横をすり抜ける姫の体。
残された俺はしばらくバルコニーに流れ込む冷たい風に体を預けていた…