さよならさえも言えなくて
これでいい。

彼のあの表情からは、答えは既に目に見えている。


「少し、考えさせて」


ドアに掛けた手に力を込めた時、確かに彼はそう言った。

あたしはこのままこの教室から出る予定だったのに、彼の予想外の言葉にどうしたらいいのか分からなくなった。
さっき無かった事にするって決めたのに、何を迷っているのだろう。


だけど

だけどあたしは


「分かった」


そう、言ったんだ。
自分でも良く分からない。自棄になったのかもしれない。
そうだとしても、それでもいいと思った。
今ならまだ振られても傷は浅くて済むし、彼だってその方が気が楽だろう。


あたしはドアを開けると、何も言わずに教室から出た。
というか、何か言える状況ではなかった。

心臓がおかしい位に脈を打って、どうにかなってしまいそうだった。
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