さよならさえも言えなくて
だから他に何も考えなくて済む勉強が1番都合がいいのだ。



あたし以外誰もいない教室に、シャーペンのコツコツという音だけが響き渡る。

昼間のあの騒がしい教室とは考えられない程静寂で、逆にその静寂がうるさく感じられた。


あたしは右手に持っていたシャーペンを静かに寝かせると、ベランダへ出てグラウンドを眺めた。


そこではサッカー部がジリジリと照り付ける太陽の下で、汗を流しながら懸命にボールを追っていた。


そしてあたしはその中の1人をずっと目で追っていた。


いつも見る巧海とは違う、真剣で一生懸命な巧海。



あたしはその姿を目に焼き付けると、教室へ戻り、またシャーペンを手にした。


途端に教室に広がる静寂。





だけどその静寂は、ドアの開く音によって壊された。
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