さよならさえも言えなくて
それになんだか恐い印象があったし、女遊びが激しいとか物凄く短気な上に怒ると誰も手をつけられないとかいう噂も耳にしていたので、あたしとしては関わりたくない人物であった。

そんな田中に声を掛けられ、あたしの体は異常な程に固くなっていた。
目の前の田中は、至って穏やかな表情をしている。

無視する訳にもいかず、あたしは口を開く。


「勉強、だけど……」


「ふーん……誰か待ってんの？」


ここで会話が終了されると思いきや、田中は更に質問を投げ掛けて来た。
あたしは動揺しながらも、言葉を返す。


「ま、まぁ」


「あ、分かった！
彼氏だろ？
確か隣のクラスの椎名と付き合ってんだよな？」


田中があたしと巧海の事を知っていたとは、正直意外だった。
今まで全く関わって来なかったし、他人の事には興味がないという様なイメージがあったから、知らないだろうと思っていたのだ。

考えてみれば一緒に登下校をしている訳だし、知っていてもおかしくはないのだけれど。
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表紙・目次

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