さよならさえも言えなくて
そんな話を聞く度、あたしの気持ちは波打って、やっぱり好きなんだと実感した。


女の子が巧海の話をしていると、複雑な気持ちになる。

でも巧海と話した事なんてなかったし、巧海はきっと入学した頃のあたしが巧海の事を知らなかったように、『成塚妃芽』という人物がいる事すら知らなかったと思う。


それでもあたしに関わりたいという気は起こらなかった。ましてや彼女になるという気など、更々なかった。

好きだけど、告白する勇気なんてあたしにはなかったし、見ていられればそれで十分だった。


自分が告白をするなんて、考えた事など一度もなかった。



気が付けばコートとマフラーが手放せない12月。

あたしは誰にも巧海が好きな事を話していなかった。

と言うより、話せなかった。

話した事もないのに好きだなんて、軽い気持ちで好きと言っている様に思えたからだ。
決してあたし自身、軽い気持ちで言っている訳ではない。自分でも不思議な程に、彼の事が頭から離れないでいた。
それに友達で何人か巧海の事をいいって言ってる子とかもいて、そんな空気の中で言う事なんて出来なかった。
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