さよならさえも言えなくて
ドアについた窓からその誰かを見る。
机に顔を伏せていて顔は見えないが、あたしはそれが誰なのか直ぐに分かった。


早く帰らないと、と思いながらも足は動かなくて、あたしはしばらくその姿を見つめていた。







突然、彼は伏せていた顔を上げた。

その瞬間、あたしと彼の視線がぶつかる。



突然の出来事に逃げ出したいと思ったが、ここで逃げたら気味悪がられるかもしれない。
そう思うと目も逸らせなくなってしまった。


よく見ると、彼の目は少し潤んでいるようにも見えた。





すると、彼はあたしに笑い掛けてきた。
つられてあたしも笑顔になる。



あたしは意を決して教室のドアに手を掛け、スライドさせた。


夕日の色に染まった教室に、ガラガラというドアの音が響く。
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