遠くて温かい
駆にぎゅっと握られたままの右手を持ち上げて、

『ん?』

と視線を向けつつ立ち止まる。

通勤途中の人達が、迷惑そうに私達を見やりながら通り過ぎていく。

それに気付いた駆は、歩道の端に私を引っ張って行くと、

「これ持ってて」

とカバンを私に差し出す。

「ほら。いいもんやるから持ってろ」

半ば押しつけるようにカバンを私に持たせると、スーツのポケットから何やら取り出した。

何?

ふふん。

とでも聞こえてきそうな不敵な笑顔を私に向けると、

「これでもつけてろ」

私の右手の薬指に手際良くはめられた…指輪。


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