Memory's Piece
「用事は済んだのか?」
「あっ、はい。」
「そうか、良かったな。」
いつまでも突っ立っている頼兎にソファーに座るように促して、紅茶を出してやりながら問うと頼兎は一瞬だけ眉間にシワを寄せた。
聞いちゃいけないことだったのかと内心首を傾げていると
「そういえば波狼さん、魅稀は?」
寝室を振り返りながら頼兎が不思議そうに聞いてきた。
「出かけたよ。多分しばらくは帰ってこないな」
「・・・・・・そうですか」
魅稀が残していった手紙には『いってきます』と一言だけ書かれていた。
『いってきます』ってことは帰ってくる気があるって事だ。
あの魅稀だ。あまり心配することもないだろう。
「修業は、俺がつけてやるから心配すんなよ。最初から俺がつける予定だったしな」
「はい。」
「ま、教えることもあんまり無いしだいたいは実戦やれば身につくことばかりだから」
そう何気なく言ってたら、修業をしてた頃に魅稀にやられた数々の事が頭にフラッシュバックした。
あの頃は魅稀を少なからず怨んでいたんだが。
成るほど。教える立場に立って初めて気づくことだが、これが確かに手っ取り早い。
面倒臭くないし。
狼の群れに犬を放り投げる・・・・みたいな心境だ。
頼兎は羊程弱くないからな。
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