Memory's Piece

――――・・・

誰もが避けて通る中、彼女は楽しげに私に近付いてきた。

ツインテールにした髪を猫のゴムで飾る彼女は、私の服を褒めて、「アタシなんかより全然似合ってるわ」とニッコリ微笑みかけてくれたんだ。

彼女は知らない。

その微笑みにどれだけ私が救われたかを。

知らなくていい。

これは私の大切な記憶だから。


そんな闊達で優しい彼女が変わったのは彼女のお母様とお姉様が事故にあった日からだった。

お母様は亡くなって、お姉様は植物状態。

いつも笑顔だった彼女は偽りの笑顔しか浮かべなくなった。

空虚な笑みはあまりにも痛々しくて、でも私にはどうしようもなかった。

人の前では絶対泣かない彼女。

幼い体に一生懸命悲しみと寂しさを押し込めていたに違いなかった。

それが分かっていて彼女の苦しみを分かち合う事が出来なかった私は彼女の親友失格だった。

しばらくして彼女は引っ越していった。

彼女のお父様が、再婚するらしかったから。

彼女が幸せになれればいい。

新しい彼女のお母様が彼女の偽りの笑顔の下に隠れる寂しさに気付いてくれればいいと私は願わずにはいられなかった。

誰よりも心優しい彼女。

誰か、彼女に優しさをそそいで欲しいと他人事のように私は願ったのだ。

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