Memory's Piece
自分でも驚く事に、怒りが湧いたのは一瞬だった。
というか、怒りを通り越して感情が凍りついてしまったと言った方が良いかもしれない。
逆立っていた毛も平常に戻り、尖っていた耳も元に戻っていく。
何処か見下した感のある視線も、斜に構えた態度も全く気にならなかった。
ここは大事な場所。
だからこそ戦場にする訳にはいかない。
そんな理性のお陰か、はたまた怒りメーターの針が振り切れたせいなのかは定かではなかったが、今のボクにはどうでもいいことだった。
「ナギサ、そこから先は言わなくて良い。…………ボクが………話す。」
蠍を見て振り切れた針のせいで、さっきまで持っていた感情も何処かに吹っ飛んでしまった。
誰かが言うくらいなら、自分で言うよ。
そんな若干投げやりな気分だ。
多分、自棄になってるんだろう。
「ちょっと、無視!?」
「頼兎、ボクから話すって事で今回は良いよね?」
「……えっ………、いや、俺は構わないけど…………」
無表情………むしろ笑顔で言うボクに頼兎は吃りながら困惑したように言う。
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