Memory's Piece
いつも通りに頼兎を殴り飛ばしたかったのに、背中を覆う温もりがボクにそうさせてくれなかった。
悔しいくらいに頼兎は温かくて。
振りほどくのを一瞬躊躇ってしまった隙を夕妃は見逃さずに、馬乗りになったボクの下からスルリと抜け出していく。
「殺人兎は残虐な猫とお友達なのね~。お似合いすぎてアタシびっくりよ」
「黙れ」
静かなボクの代わりにボクを羽交い締めにしたまま頼兎が唸りながら夕妃を睨みつける。
それすらも面白がる夕妃は、舞台女優のように両手を広げてクルクル回りながら狂ったように笑う。
「黙らないわよぉ~。
だって、ちゃんちゃらおかしいもの。
全てをアタシから奪っていったコイツが楽しそうにするなんてアタシ、許せないもの。」
「いい加減になさい!」
いつの間にかボクの横に来ていた零一が、素早く彗千を取り出して夕妃に攻撃を仕掛ける。
ちなみに補足情報だけど、零一の武器のあのワイヤーの名前が彗千って言うんだ。
……ま、どうでもいいか。
若干壊れかけた思考回路でどうでもいい事を考えていたボクは不意に香った嗅ぎ慣れた香りに目を見開いた。
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