Limiter
ハヤトは慌ててスーツのポケットからケータイを取り出し、操作し始めた。
しばらくして何かを見つけたのか、私の顔を見て勢いよく頭を下げた。

「この前は寝てしまってすみませんでした!!」

どうやらケータイの電話帳から、私の名前を探していたようだ。

「確かにあの日は二人とも寝ちゃったし、ろくに喋ってもいないし、顔覚えてるわけないよね」
きちんと思い出してくれたことにホッとしたが、
普通にキャッチされてしまった悔しさのためか、私はわざと嫌味臭く言った。

「いやいや! 覚えてますよ!」

「だったらなんで今キャッチしてきたわけ?」

「お友達の方に言ったんです!」

私の隣に居た友達を手で示しながら彼は言い放った。
なんとも苦しい言い訳。

「4日間連絡無かったし…」
さらに私は問い詰める。

「それは…あの、ホストだからこんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど、ここ数日帯広に帰ろうと思ってたんです…」


数日間のメールやり取りで、ハヤトの地元が札幌から車で4時間ほどかかる場所にある帯広だというのは知っていた。
詳しく話を聞いたわけではないが、「COLORS」のブログにプレオープン前からハヤトが登場していたことを考えると、おそらく今年の5月上旬頃に帯広から札幌へ来たのだろう。

地元の帯広に帰ろうと思っていた、ということは、飛ぶもしくはホストを辞めようと思っていたということだろうか?
それがどうして4日間連絡しなかった理由に繋がるのか。
「病んでいた」とでも言いたいのだろうか?

ホストになってまだ2ヶ月のハヤト。
色々悩んでいたのかもしれない。
売上、指名客、体調
今なら分かるが、このときの私はただのホームシックだと思っていた。
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