Limiter
理由とも言い訳ともとれない、ハンパな言い分に納得いかず、
私は友達の腕を引っ張ってさらにハヤトとの距離を開けた。

「あ、あの! お詫びにまた初回料金で入ってもいいですよ!」

「は? また何人もホスト着いて相手しなきゃいけないの? だったら本指名で行くよ」

正直、もう一度初回料金で入れるのは魅力的だ。
しかし、前回初回で着いたホストの誰か1人ぐらいは私のことを覚えてるかもしれない。
そしてまた何人ものホストが着いて話さなきゃいけないのは面倒だ。
すぐにハヤトを場内指名すればいい話だが、
元々今日はハヤト本指名で行くつもりだった。

4日間放置をくらって面白くなかったが、
もはやハヤトにハマってしまった身。

もうこの時点で私は、この新人ホストに甘かった。


それでもすぐに「行く」と尻尾を振ってハヤトに着いていくのはプライドが許さないので、とりあえず私は友達と相談した。

友達はこの後とくに予定は無いようで、私が行くなら一緒に、ということだった。

どうせ4日間放置をくらっていなければ、迷わず今日は「COLORS」に行っていたのだ。
どっちにしろ私は「COLORS」に行く運命だったのだ。
こうして偶然ハヤトに会えたのも運命。
私はそう都合よく考えて、自身のプライドを打ち消した。

「じゃあ私は、ハヤトくん本指名で。友達は初回で行くよ」

私がそう言ったとたん、それまでどこか影のあったハヤトの表情が、一気に明るくなった。
「え!? ほんと!? じゃあお店まで一緒に行きます」

喜々として先頭を歩き始めたハヤトを見て、
私は満足していた。


後にハヤトはこの時のことをこう言っている。

「言い訳じゃないけど、顔を見てすぐに名前を思い出せただけでもすごいでしょ」

けっしてすごくは無い。
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