Limiter
コール用のBGMが大音量で流れる中、
リードマイク、サブマイクと呼ばれる2人のホストの掛声がスピーカーを通して店内いっぱいに広がる。
そんな騒がしさから一転、突如大音量で流れていた音楽がピタリと鳴り止み、シーンと静まり返った。
身を乗り出したホストが、スっと私の目の前にマイクを差し出してくる。
そのマイクに戸惑うこともなく、私は軽く息を吸い込んでからマイクに向かって喋った。

「ハヤトがホームシックで帯広に帰りたいみたいなんで、地元に戻ってそのまま飛んじゃわないように見張っててください!」

コールには、「姫からの一言」というのがある。
普段は大人しく人前で話すのは大の苦手。
そんな私がマイクで話すなんてもってのほか!
だが、「姫からの一言」に対する免疫はあった。
聖司が担当だったとき、シャンパンやら飾りボトルなどを入れて計5回のシャンパンコールを経験していたのだ。
最初の頃はマイクを向けられるたびに緊張して、一言発するのが精一杯だったが、
今となっては、マイクをホストから奪って「一言」どころか長々と喋るまでに「マイク慣れ」してしまっていた。
普段は人から注目されることが一番苦手なのに、
ここでは、自分が主役になってみんなから注目されるのが何よりの快感となる。

ホストクラブとは、そういうところなのだ。
いつもとは違う自分になれる。
私は今みんなから注目される「姫」なのだ。
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