Limiter

10.アフター

DAY:2008/8/8


ラスソンが終わり、この日の営業が終わったことを内勤がマイクで告げると共に、
私の夢の時間も幕を閉じた。
まるで、12時を過ぎたら魔法が解けてしまうシンデレラのようだ。


「この後どっか行く?」

すっかり薄くなってしまった緑茶割の鏡月を、酔い醒ましにチビチビ飲んでいると、
いつの間にか隣に戻ってきていたハヤトがそう尋ねてきた。
一瞬頭によぎったのは、ハヤトは昨日の営業が終わってからずっと寝ていないということだった。
ラスソンのお礼として私をアフターに誘ってきたのだろう。
見返りを求めるような客にはなりたくない。
けど、もっとハヤトと一緒に居たかった。
これでお別れしてしまうのは嫌。
申し訳ないと思いつつアフターの誘いを受けた。
私は、もっともっと夢の世界に浸っていたかったのだ。



その日一番最後のお客さんとしてハヤトと一緒にお店を出た。
するとエレベーター前の狭い廊下に、「COLORS」のキャスト十数人がズラっと並んでいた。
どうやら営業終了後は、その場に居るキャスト全員がこうしてお客さんのお見送りをしているようだ。
次々と、「おめでとう!」や「ありがとうございます!!」と声を掛けれて、
その光景と勢いに圧倒されてしまった。
店を一歩出た瞬間大人しい普段の自分に戻ってしまったのか、
大勢にこうして見送られることに気恥ずかしさを感じながらも、悪い気はしなかった。

ハヤトにビル下まで送ってもらうのは今回が初めてだ。
この時の私は気持ちが高揚していて、何もかもが新鮮に映って、何もかもが幸せだった。

聖司に初めてラスソンを歌ってもらったときもこんな気持ちだったなぁ…と一瞬感傷に浸ったが、
もう過去の担当の思い出に浸るのは止めようと頭の中からその記憶を追い出す。


外に出るとすっかり日は昇っていて、その眩しい太陽の光に、急に現実の世界に引き戻される感覚に陥る。

しかし、いつもホスクラから朝帰るとき感じる虚しさも、今日はそんなに感じなかった。
まだハヤトと一緒に居られると思うと、そんな虚しさも現実の世界も吹き飛んでしまう。
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