Limiter
ハヤトがナンバー1になったときのことを想像して、少し寂しい気持ちになった。
なんだかハヤトが遠くに行ってしまう気がしたのだ。
でもこうやって今頑張っている姿を見ると、
もっと応援していかなくちゃと思えた。


ハヤト…
私はただの安月給な昼職だし、今日みたいに派手な応援をしていくことはもう出来ないかもしれない。
でも、可能な限り応援はずっとしていくから。
だから、がんばって。
そして願うならば、今日の初ラスソンを忘れないで。



ブックの箱を受け取り、私達はあてもなくすすきのを歩きだした。

道を歩きながら、私はふと思いついて名刺入れをバッグから取り出した。
中から聖司の顔写真名刺を3枚抜くと、ハヤトにそのまま手渡した。

「もうこれ必要ないから、ハヤトが預かってて。捨ててもいいよ」

もう必要ないが、しかし自ら捨てる勇気はない。
そんな未練を残した私の意気地無しな思いから、聖司の名刺をハヤトに託した。

今まで大事にしてきたその3枚を失うことに、私の心の奥に潜んでいた未練が少しチクリと痛んだが、
今の私に必要なのは、目の前に居るハヤトだ。
そう思い、その痛みに私は目をつぶった。


「あ、ついでにこれもあげる」

そい言いながら私は名刺入れからもう一枚引き抜いてハヤトに手渡した。
それは私が勤めている会社の名刺だった。

本名はもう教えているから問題ないが、この名刺には会社の名前や住所、電話番号も当然ながら記載されている。
まだたった3回しか会っていない、ホストと客というだけの関係なのに、ここまで自分の身をバラしてしまってもよいのだろうかと思うが、
酔っていたせいもあって、私はその危険性について深く考えずに、
自分の全てを知ってもらいたいという気持ちから、自分の会社の名刺をハヤトに渡した。

それは、「私はハヤトを信頼しているよ」というアピールでもあった。
だからハヤトも私のことを信頼してほしい。
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