Limiter
夜の世界には「掛け」という制度が公然と行われている。
持ち合わせ以上の会計金額だった場合、払えなかった分を「ツケ」にしておけるのだ。
どこのホストクラブでもたいてい「掛け」は出来るが、
もしお客さんが掛けを期日内に払えなかったときは、担当ホストの給料からその分の金額が引かれることになってしまう。
しかも多くの店では、掛けの際書面に記すことも無く、たんなる口約束で済ませられるのだ。
そのせいか、掛けを払わずに飛んでしまうお客さんも居る。

この日私は掛けをしていた。
だからこそ、信用してほしいという気持ちがあったのだ。


その後私達は、『狸小路』というアーケード街の中にあるゲーセンに向かった。
しかし9時オープンのそこはまだ開店準備中だった。
あと10分ほどしたらオープンする。
オープンを待つ間、店前に置かれていたUFOキャッチャーでハヤトが遊びだした。

そのUFOキャッチャーの中には、カピパラさんのぬいぐるみがぎゅうぎゅうに詰まっている。
そういえば店に居るとき、鏡月のボトルネックにマスコットキャラクターのぬいぐるみをかけたいと自分が言ったのを思い出した。
その時ハヤトが、だったらカピパラさんのぬいぐるみが良いと言っていたのだ。

この景品のカピパラさんは、鏡月のボトルネックにかけるのに丁度良い大きさだ。

ハヤトが荷物を地面に置き、標的となるカピパラさんを選びだした。
標的が定まり100円を入れて、ゲームが始まる。
正面、横と動きながら奥行きを確かめ、ハヤトがクレーンを操作していく。

クレーンがゆっくりと下がっていく様子を、私はじっと息をつめて見守った。
クレーンの爪が開き、ガシっといくつかのカピパラさんを掴んで、クレーンの爪が閉じられていく。

そのまま上に上っていくクレーンの爪の先には、

なんと、1体のカピパラさんがしっかりとぶら下がっていた。
そのままカピパラさんは途中で落下することなく、無事ゲットすることが出来た。
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