将棋少女
静かに、またしても『銀将』が『玉将』の前に打ち出される。
王手。
逃げ道は、やはりない。
僕は溜め息を一つついて椅子の背もたれに体を預けた。
「ありません」
香歩さんは、窓縁に頬杖をつき横顔を見せる。
西日は夕暮れの赤を帯びていた。
「正直、僕にはわかりません」
「こんな無口で面白みもなくて将棋しか脳にない女と一緒にいる僕がうらやましい、だなんて。その精神がわかりません。って所かしら」
「そんな事思うわけないでしょ!?」
立ち上がり、両手で叩いた机は乾いた音を響かせた。
「知ってるわよ。そんな事」
香歩さんが僕を一瞥する。
「冗談よ」