将棋少女
「けどね」
突然。
僕は押し倒された。
仰向けで、目の前には香歩さんが。
彼女の影は僕に落ち、濡れた黒髪は微かに頬を撫でる。
訳がわからなかった。
「香歩さん?」
驚きを隠さない声音に香歩さんは反応しない。
けれど、どこか香歩さんの双眸は寂しそうに見えた。
なんで、『また』そんな目をしてるんですか。
僕は香歩さんの寂しそうな目を見るのは初めてじゃない。
初めて香歩さんと会ったあの時もこんな目をしていた。
「……あの、香歩さん。結構、…痛いです」
主に、思いっきり押さえつけられてる肩が。
「えと、香歩…さん?」
「……」
香歩さんが何かを呟いた。
だけど小さく紡いだその言葉は聞き取る事は叶わず、空気に混ざるように溶けていった。