将棋少女
最終手、孤独な世界と『王将』
* * *
その日の放課後。
いつものように部室である図書準備室に足を運ぶと、やはり当然のように香歩さんは既に待っていた。
頬杖をつきながら窓の外を眺めていた香歩さんが僕の方を向く。
「待たせちゃいましたか?」
「多少、ね」
「すいません。僕今日掃除当番だったんですよ」
「あらそう」
会話自体に意味も必要も感じない。香歩さんはそういうスタンスで生きている。
言葉が、嫌いなのかもしれない。
僕は入室し、後ろ手にドアを閉めて香歩さんの対面に座る。
机の上にはいつも使っている、薄汚れた折り畳み式の将棋盤。
将棋盤には駒が整列し開戦の合図を待っていた。
「さ、始めましょうか」
そう言って香歩さんは僕に先手を促す。
先陣を切ったのはもちろん7六歩。