将棋少女
香歩さんは急戦を好み、確かに盤面によってはごり押しさえ辞さないスタイルではあるが、これはあまりに早すぎる。
早すぎる仕掛けだ。
まだ盤面の僕の陣は崩れていない。これならまだ押し返せる。
「悪ふざけですか。じゃあもう一つ尋ねてもいいですか?」
高美濃囲いを形作る金将、銀将は勇猛に香歩さんの攻め手を受け続ける。
「なんで香歩さんは僕にあんな事を言ったんですか?」
香歩さんの打ち手が止まり、清冽な双眸が僕を映す。
打ち手が止まったのは、手詰まりなのか。それとも僕の言葉の言葉に惑いを得たのか。
僕にはそれを知るすべはない。
「香歩さん、僕に言いましたよね。『私を愛しなさい』って」
保健室から戻り、僕はずっと考えていた。
ずっと。香歩さんの口の動きを思い出し、あの光景を思い出し続けた。