将棋少女
「私は、別に誰でもよかった。そこにたまたま君が来た。ただそれだけの事」
「でも香歩さんは僕を受け入れてくれた」
「……結論から言えばそう。私は、誰でもよかった」
急戦に傾けた香歩さんの残りの駒は多くない。
端から見れば、既に勝敗は決したレベルの戦力差。
「誰でもいいから、香歩さんは誰かを待っていたんですね」
香歩さんは、待っていた。
共に将棋を打つ人か。
共に会話をする人か。
それとも香歩さん自身をわかってくれる人か。
香歩さんは人を待っていた。
だから部員募集の張り紙を外さず、ずっとこの教室で一人で打ち続けていた。
「香歩さん。
待っていてくれてありがとうございます」
「……私は、あなたを待っていた覚えなんてない」
「いえ。香歩さんがここで、誰かを待っていてくれたから僕は香歩さんに出会えました。だから、ありがとうございます」