将棋少女
「……それはもう、痛いレベルの勘違いね」
「はい。勘違い野郎ですいません」
僕は指す。攻めに転じて、慎重に、けれど喉元に食い込む一撃を積み重ねる。
香歩さんも指す。圧倒的な戦力差を、僅かな精鋭で受け止める。
「僕は香歩さん、あなたが待っていた人間になりたいんです」
「……」
少しずつ、香歩さんの守りが崩れだす。
攻め手を繰り返す。
「あなたは、私の待っていた人間じゃないのっ!!」
盤面に打ち付けられたのは『角行』。それはまさかの詰めろの一手。
詰めろ。とはあと一手で詰みになる手の事。
けれどそれは既にあまりに無意味な一手。
『角行』の通り道を阻害しつつ攻め手を繰り出す。
「僕は香歩さんに勝って、香歩さんにとっての特別になります。待っていた人間になります」