1000文字の話。
「ねぇ。もし、私が別れたくないって言ったらどうする?」

「ははっ。それは困るよ。俺、来月結婚だし。それに、お前…その指輪。最近男でも出来たんじゃね?」

「…まぁね。」

「ふーん。どんな奴?」

「貴方には、言いたくないよ。」

「なんだよ。気になるじゃん?」

「…嘘ばっか。」

「嘘じゃないよ。今だから言うけど俺、お前の事結構本気だったんだ。」

「へぇ。」

「何。その返事。俺の事、信用してないでしょ。」

「信用?する訳無いじゃない…」

「そっかぁ。まぁ、終わった事だし。いいよ、別に。」

「終わった事だし…ね。」

「ん。じゃぁ俺、そろそろ帰るわ。」

「―待ってよ。もう会えなくなるんだし…。
ご飯くらい食べて行って。今日はポトフ作ったの。すぐ温めるから。
ね?いいでしょ?」

「そう…だな。最後だし。食べて行くよ。」




「ねーぇ。覚えてる?」

「何を?」

「ホラ。最後の晩餐の話。」

「最後の晩餐?」

「そう。私が『最後の晩餐は何がいい?』って聞いたら、貴方『お前が作ったポトフが食べたい。』って、言ってくれたよね。」

「あぁ。そんな事も言ったっけ…」

「うん。」

「じゃぁ、俺の最期には、お前にポトフ作りに来て貰わなきゃなぁ…。」

「…わざわざ?行かないよ。私。」

「ははっ。冗談だよ。」





「はい。私達の『最後の晩餐』…どうぞ。」

「ありがとう。」

「私だったら、『最後の晩餐』に、自分の手料理は嫌なんだけど。」

「そっか?ウマいよ。コレ。」

「そう?」

「うん、うま…!!……ガッ……ゲホッ…!」


「…ねぇ。貴方は本トに、この指輪に見覚えない?」

「……なん……グホッ…っ」

「この指輪。彼女が貴方に、初めて買って貰った物なんだって。私は1度、も貰った事なんて無かったのにね。」

「…!ゲホッ………ッ…」

「あんまり自慢げに言うから私、刺しちゃったじゃない。」

「ガ……ア゙ッ…!」

「真っ赤に染まって、彼女凄く綺麗だったよ?」

「…っ――――」






「ねぇ?『最期の晩餐』。…お味はいかが?」


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