幸運の器
1時間ほどして萌子が控え室を覗くと、悠斗はすでに落ち着きを取り戻し着替えも終えていた。

しかし、相変わらず心ここにあらずといった体で椅子に腰掛けている。

「桜井君」

萌子の言葉に、悠斗はゆっくりと顔を上げた。

「ああ、中田さん……」

「何があったの?何て聞かないわ。だけどね、桜井君。これだけは言わせて。あなたは、あなたの信じることをしなさい。失いたくないと思うものは、絶対に手を離しちゃダメよ。あなたにとって、それが葵ちゃんなんじゃないの?だったら、葵ちゃんのことしっかりと掴んで捕まえておかなくちゃ」

萌子の言葉に次第に悠斗の焦点が合わさってきた。

「中田さん……」

「それにね」

萌子は、さらに続ける。
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