幸運の器
「私は、あなたたち二人は離れちゃいけないと思う。だって、二人ともとっても幸せそうな顔してたもの。あなたは気づいてなかったかもしれないけど、私はあんなに幸せそうな花嫁さんの顔見たことないわ。だから、さあ早く行きなさい」

萌子はにっこりと笑って悠斗の肩を軽くたたいた。

「中田さん…ありがとう!」

それだけ言うと、悠斗は走り出していた。

花嫁控え室を覗くと、もうすでに葵の姿はそこにはない。

それを確認すると、悠斗は再び走り出しそのまま教会を飛び出した。

もう何も考えられなかった。

ただ悠斗の願いは、もう一度葵に会うことだけ。

走りながら葵の携帯に電話する。

携帯からは、空しい機械音が聞こえるのみ。

携帯を乱暴に切ると、ちょうど通りかかったタクシーを止めた。
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