幸運の器
さすがに母屋にいきなり入る勇気はない。

それに、なぜだか母屋には自分の探すものはないように思えた。

悠斗の足は自然と、前に来たときに通された茶室に向かっていた。

記憶を頼りに歩いていくと、小さな離れが見えてくる。

部屋の中には灯りは燈されてはおらず、その代わり入り口が少しだけ開いていた。

何気なくその入り口から中を覗いた悠斗は、その場に凍りついた。

狭い茶室の中央に大きな血溜まり。

その中央に身動き一つしない葵。

狭い窓から差し込む月光に照らされているせいなのか、その顔からは生気というものが感じられない。

そして、その傍らに呆然と立ち尽くす華音。
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