幸運の器
そう言うと、一磨は手で顔を覆うように頭を抱えると、そのまま動かなくなってしまった。

悠斗は何と声をかけていいのかわからなかった。

一磨はしばらくすると、ゆっくりと顔を上げ、懺悔でもするかのように悲痛な色漂う声で話し出した。

「あれは、7年前のことさ。組織に入って認められ始めた頃のことだった。そのときの俺は、組織の本当の姿も知らず、自分を拾ってくれた恩人のように感じていた」

一磨はどこか遠いところでも見るような目になっている。

「ある日、組織のボスに呼ばれた。ボスに呼ばれるだけで名誉なことなのに、そのボスが俺に頼みがあるという。俺は、単純に舞い上がっていた。――その頼みというのが、葵の器を百目鬼家に与えて欲しいということだった」

「でも、器がなくなっても別に大きな害があるわけじゃないんですよね?」

「あぁ、その時の俺もそう考えた。葵は俺と同じ状態になるだけだ。俺自身、器がないことに何の不便も感じていなかった。だから気軽に了承してしまった。俺は逆に葵も自分と同じになってくれたと喜んでさえいた」
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