幸運の器
今は時間がなかった。

少しでも可能性のあることなら試すしかない。

「そう…だな。気になることはある。だが、俺はまだ少し調べることがある。だけど、お前は普通の生活をしろ。おそらく、それで事態が動くだろう」

それだけ言うと一磨は立ち上がり、悠斗の横に立った。

悠斗もつられるように立ち上がる。

一磨は一瞬拳に力をこめたが、グッとそれを抑えると悠斗に帰るように促した。

「あの……殴ってもいいですよ」

悠斗には一磨の気持ちが伝わってきていた。

悠斗は一磨に葵を守るように最初に言われた。

しかし、それを実行することができなかった。

一磨はそれが理不尽な怒りであるのは承知しているが、その怒りをどこにぶつけていいのかがわからないのだ。

「いや…すまない……」

一磨の腕から力が抜けると、悠斗に向けて手を差し出した。

悠斗は黙ってその手を握る。

そして二人は硬い握手を交わす。
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