幸運の器
その時、ふと悠斗の耳に葵の声が聞こえた。

『周りの人を信じて……』

それは、葵に最後に会ったときに残された言葉だった。

悠斗の周りの人間。

葵や家族を除くと、真っ先に思い浮かぶのは認めたくなくても匠の顔だ。

(葵は匠の事すら信じろというのだろうか?)

その瞬間、悠斗の脳裏には匠との思い出が走馬灯のように駆け巡った。

匠との思いで全てが嘘だったとは思いたくないし、思えない。

悠斗は怒りがスーッと引いていくのを感じた。

相変わらず悠斗の体の周りには光の膜が張られているように、薄ぼんやりと輝いてはいたが、あの突き刺さるような凶暴さはなかった。

悠斗を包む光はその性質を変えていた。
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