幸運の器
少女は、話したくないのか、それともどう話そうと考えているのか口を噤んだままだった。

痺れを切らして悠斗は口を開いた。

「あのさ、もし話したくないんなら話さなくてもいいよ。でも、せめて名前だけでも教えてくれないかな?」

ずっと俯いたままだった、少女は驚いたように顔を上げると、

「あっ、ごめんなさい。あの……私、佐伯葵っていいます。その別に話したくないわけではなくて……」

そしてまた、俯いてしまう。

悠斗の顔を直視できないようだった。

「そうか、葵ちゃんって言うんだ。かわいい名前だね」

悠斗は、自分と向かい合ってると葵が話しづらそうなのがわかり、顔を正面に向けたまままたゆっくりと歩き出した。
< 34 / 207 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop