幸運の器
角を曲がったところに、一台の黒い高級車が止まっている。

カノンは、何の躊躇もなくそれに乗り込んだ。

「ちょっ!おい!」

悠斗は慌てて、カノンを引きとめようとしたが、車の後部座席におさまったカノンは悠斗にも早く車に乗るように促す。

悠斗は、逡巡した結果、仕方なくその車に乗り込んだ。

悠斗が乗り込むと、車は音もなく動き出す。

外観からしても高級車然としていたが、中はそれ以上だった。

何と言っても、シートに使われている素材からして違う。

悠斗は、いまだかつてこんな乗り心地のいい車に乗ったことがなかった。

「おい、カノン。何なんだ、この車は?」

「これは、我の車じゃ。何も遠慮することはない。少し長い話になるゆえ、我の邸まで来てもらう」

カノンは、それだけ言うと少し疲れたといって目を瞑ってしまった。

悠斗は、所在なさげにしていたが、こうなればなるようになれと少し自棄気味になって大人しく車に揺られることにした。
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