幸運の器
華音は迷っているように見えた。

しばしの沈黙の後、華音は意を決したようにまっすぐな視線を再び悠斗に向けた。

「わかった。では、お主の好意に甘えさせてもらおう」

そう言うと、華音は改めて背筋を伸ばした。

悠斗もそれにつられて、座りなおす。

華音は、お茶を入れたお湯を柄杓に少しとり場を清めるように十字を切る。

そして、徐に口を開いた。

「我、汝の魂に語りかける。我は、汝の器を欲す。我の言の葉、諾うならば我の望みしもの供出せよ」

華音が言葉を紡ぎだすたびに、その場の空気が澄みわたっていくのが感じられる。

そして、華音が言葉を結び、また同じように水で十字を切ると、この狭い茶室が柔らかい光の渦に飲み込まれた。
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