幸運の器
しかし、しばらくすると隣で座っている祥子の様子がおかしいことに気がついた。

「おい、祥子。大丈夫か?」

教授に見つからないように、小声で祥子に話しかける。

チラリと祥子を見ると、真っ青な顔をしていた。

「ゴメン、悠斗。私ちょっと気分悪いから、抜けるね……」

今にも消え入りそうな声でそう言うと、祥子はふらつきながら立ち上がり、教室から出て行ってしまった。

「祥子……」

本当は、ふらつく祥子を支えて休める場所まで連れて行ってあげたかったが、なぜか悠斗の体は動かない。

祥子の今にも崩れそうな頼りなげな後姿が悠斗の瞼に妙に焼きついた。
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