幸運の器
悠斗のそんな様子など気にもしないで、匠はいつもの笑顔を見せている。

「ああ、実は、祥子を探してるんだけど、匠、知らないか?」

匠は、何でもないことのようにうなずいた。

「祥子ならさっき帰ったよ。なんだか、すごく体調が悪そうだったね」

そこで初めて匠は、心配そうな顔をした。

「そうか……」

悠斗は、心配ではあったが自分の足で帰れるぐらいだから、きっとたいしたことではなかったのだろうと思った。

「悠斗、この後なんか講義入ってたっけ?」

「ん?いや。この後はしばらくぶらついてから、葵のところに行こうと思ってるけど?」

「そうか。じゃあ、僕はまだ講義あるからまた明日な」

そういって匠は、背を向けて歩き去っていった。
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