幸運の器
葵はいつものように、学校が終わるとまっすぐに喫茶店へと急いだ。

葵の中に悠斗にはいえないある不安がある。

しかし、喫茶店の中に悠斗をみとめるとそんな不安など吹き飛ぶのだった。

「悠君」

葵が声をかけると、悠斗は文庫本に目を落としていた顔を上げて、微笑んだ。

「葵。早かったね」

悠斗は立ち上がると、会計を済ませて葵の手を引くと店の外へ出た。

「葵、今日はどこに行きたい?」

「えっ?あっ、ゴメン、何にも考えてなかった……」

戸惑う葵の顔を見て、悠斗は少し慌てた。

「ああ、いいんだよ別に。たださ、今日オレちょっと汗流したい気分なんだよね。だからさ、バッティングセンターとか行ってもいいか?」

葵は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐににっこりと笑ってうなずいた。

「うん。行こう!私、バッティングセンターって行くの初めてだから楽しみ!」

葵はいつも素直な反応をする。

悠斗には、それがとても新鮮でそしてとても愛しくもあった。

「じゃ、行くか」
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