幸運の器
「よし、じゃあ今度はもうちょっと速いのに挑戦してみるかな」

悠斗は再び、バッティングボックスに立ち集中した。

ボールを打っているときは、全ての雑念が払われ無心になれる。

最後のボールをホームランボードに打ち付けると、悠斗は得意気に後ろを振り返った。

悠斗は、また葵のあの笑顔が見られると思っていたが、その期待は見事に裏切られた。

葵は今にも倒れそうな真っ青な顔でぶるぶると震えている。

「葵!?」

悠斗は、何が起こったのかさっぱりわからなかった。

「おい、葵!どうしたんだ」

急いで葵の元へと駆け寄ると、悠斗は葵を抱きしめた。

抱きしめて気がついたが、葵の体は異様に冷たくなっている。

悠斗は、ただひたすら葵を抱きしめて、背中を優しくさすってやることしか出来なかった。
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