幸運の器
しばらくすると、葵の震えはおさまったが相変わらず顔は真っ青で、体は氷のように冷たい。

「大丈夫か?」

悠斗は、葵の顔を覗き込むようにしたが何故か葵は目をそらすと、

「う…ん。大…丈夫……」

と、かすれるような小さな声で答えた。

「どこが大丈夫なんだよ!」

悠斗は軽い憤りを覚えて、思わず怒鳴っていた。

葵は、体をビクリとさせると悠斗から離れた。

「ゴメン、悠君。私、気分悪いからもう帰るね……」

葵はそれだけ言うと、まるで悠斗から逃げるように走り出していた。

悠斗は、呆気に取られて一瞬出遅れた。
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