アイツとコイツは許嫁。
校舎に入っても周りの視線は減ることを知らず、ついにはこんなことを耳にしました。
「あれって東宮の婚約者?」
・・・噂ってすごいですわね。
なんでそんなに好き勝手に話を作ってしまうのか、いささか疑問に思います。
ふざけんじゃないですわ、という意味をこめて勝手に婚約者発言をした男を睨んでやりました。
・・・逃げるのは早いようですね。
弱い奴ですわ。
「・・・お前、今誰睨んだわけ?」
さあ。
「名前なんて知るわけないですわ」
「・・・我が道を行くなあ、お前」
当たり前ですわ。
我が道ですもの。
「・・・何か?」
「いや、周りの奴を巻き込むなよ。」
「さあ?」
どうでしょう?
生徒たちが込み合っている廊下の一角で『はあ・・・』と摩央がため息をつきます。
「・・・分かってんのか・・・?」
廊下の雑音に紛れそうになる瞬間に聞こえた摩央のつぶやきは、聞かなかったことにします。