思い出の前に
思い出の前に
岡部康仁は、有名ジュエリーショップの自動ドアの前でもう30分もウロウロしていた。



店内の客や店員たちは、岡部の事を変質者と見なしているようである。



岡部がなぜこのような変質者めいた事をしているかというと、一回りも年の離れた恋人に渡そうとしている婚約指輪を買うために、若者で溢れかえっているこのジュエリーショップへ入る事がただ単に恥ずかしいというだけの事だ。



この男、もちろん変質者などではなく、立派な社会人である。



職場では同期や先輩からの信頼も厚く、本当はしっかりした人間なのだが、恋人の事となるとただの情けない男に変貌してしまうのだ。
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