思い出の前に
「今のさ、康仁たちじゃなかった?」



桐谷という女が安堂に言った。


岡部は安堂にしか気がついていなかったが、本当は隣に桐谷もいたのだ。



「そうだな」



安堂は岡部たちに気付いていなかったわけではなく、なんとなく気付かないフリをしてしまっていただけだった。



「いいの?」


「何が?」


「あんた、あの子の事好きなんでしょ?」



桐谷のその言葉に安堂は驚いた。



「お前、知ってたの?」



安堂のその言葉に桐谷は驚いた。



「知らないと思ってる事にビックリしたわ。あたしは、あんた達みたいにバカじゃないし」



『あんた達』の中にはもちろん岡部も含まれている。



「そこまで言われたら傷つくんだけど」



安堂はしゅんとした。



ちなみに、安堂は今まで口げんかで桐谷に勝利したことは1度もない。
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