思い出の前に
安堂は、安堂らしくない力強い口調で言った。



ミサは悲しい表情でうつむいてしまった。



断るための言葉がすぐには浮かばないのだろう。



「だけど、付き合ってくれとは言わない。俺はお前が好きだけど、お前には康仁が似合ってるよ。だから、康仁と付き合ってほしい」



この意外な言葉を聞いたミサはもう一度、安堂の目をみつめた。



「知ってたの?」



安堂は口元を緩めた。



「お前が康仁を好きな事も、康仁がお前を好きな事も知ってたよ。


ただ…


俺が割って入ったせいで、お前が苦しんでる事は知らなかった。


今まで苦しい想いさせてゴメンな。


もう迷わなくていいから」



ミサは何か言いたそうだが、やはり自分の気持ちを表す的確な言葉が出てこないようだ。
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